時の羅針盤

The Compass of Time

『THE TRAVEL BULLETIN』「秩父丸」の日本座敷

「秩父丸」は1930年に竣工した豪華客船で、姉妹船の「淺間丸」「龍田丸」とともにサンフランシスコ航路(米国)へ投入されました。『THE TRAVEL BULLETIN』32年4月号では、「秩父丸」の船上に造られた本格的な日本座敷について紹介しています。

日本の富裕層の家屋に見られる立派な間取りが、(株)竹中工務店などにより、「秩父丸」船上に造られ、「日本座敷」と呼ばれていました。

まず、訪問者はタイル張りの玄関で靴を脱ぎます。玄関の屋根は銅製で古めかしくぜいたくで、堅固な様相を醸し出していました。そして訪問者は、「取次(とりつぎ)の間」(3畳)、「中(なか)廊下」を通り、お客さまを対応する「次の間」(6畳)に入ります。この「次の間」は障子と襖(ふすま)で仕切られ、趣のある家具が備えられていました。さらに奥は、「書院」と呼ばれるヒノキ造りの10畳の座敷になっていました。座敷には袋戸棚や金箔(きんぱく)の装飾が施された黒漆塗りの縁の襖、そして手の込んだ細工の施された白いニス塗りの欄間がありました。

「床の間」に掛け軸と花が飾られ、畳には火鉢や肘掛け、碁盤が置かれていて、囲碁を楽しむことができました。また茶道に興味のある外国の船客には、作法を身に付けた日本人司厨員から抹茶がふるまわれました。

本記事が掲載された当時、本格的な「日本座敷」がディーゼルエンジン船、かつ3姉妹船へ同時に設けられたのは、サンフランシスコ航路の「淺間丸」「龍田丸」「秩父丸」が初めてだったようです。

船内の「日本座敷」は日本人の船客を喜ばせるだけでなく、外国の船客も日本家屋の内装を楽しむことができました。日本到着前にその魅力を味わってもらう良い機会になったと記されています。

『THE TRAVEL BULLETIN』:1920~41年、日本郵船が発行した英文広報誌。全195巻

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