時の羅針盤

The Compass of Time

『THE TRAVEL BULLETIN』親善のバラと石灯籠

5月になると、日本郵船氷川丸がある山下公園(神奈川県)をはじめ、横浜にはたくさんのバラが咲き誇ります。それもそのはず、横浜市のシンボル花はバラなのです。そしてこのバラにはシアトル(米国)と横浜を結ぶ親善の歴史がありました。『THE TRAVEL BULLETIN』1930年10月号と1932年8月号では、その経緯が伝えられています。

1930年9月、シアトル航路の初航海に向かう「日枝丸」には、高さ約4 メートル、重量約8.5トンもある巨大石灯籠(いしどうろう)が積まれていました。これは、関東大震災(23年)で大きな被害を受けた横浜市が、米国の見舞金をはじめとするたくさんの支援へ感謝の意を込め、日米親善のシンボルとしてシアトルに贈ったもので、シアトル在住日本人会の提案が発端となったといわれています。この石灯籠は大変喜ばれ、日本人会がその数年前に寄贈した桜500本※1が植えられたシアトルのスワード公園入り口の最も目立つ所に設置されました。

そして程なくそのお礼にと、シアトルから横浜市に送られたのが、50種2,000株※2にも及ぶバラでした。「三島丸」と「日枝丸」で運ばれたバラは、山下公園、野毛山公園、保土ヶ谷児童遊園地などに植えられました。太平洋戦争によって、一時は横浜から姿を消しましたが、戦後再び親善のシンボルとして復活します。80年以上を経た現在も、横浜市こども植物園にはシアトルから贈られたバラの子孫が、そしてシアトルのスワード公園には石灯籠が残っています。

※1 ※2 諸説あるが、『THE TRAVEL BULLETIN』記載の数字とした

    • 『THE TRAVEL BULLETIN』 1930年10月号

    • 『THE TRAVEL BULLETIN』 1932年8月号

    早稲田大学図書館協力

『THE TRAVEL BULLETIN』:1920~41年、日本郵船が発行した英文広報誌。全195巻

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