第二次世界大戦で多くの船舶を失った日本の客船事情を配慮して、1950年代に建造されたAクラス・Sクラス船※には12人分の客室が設けられていました。サロンには特注の家具が備え付けられ、壁には船名にちなんだ漆絵や西陣織、ガラスモザイクなどの趣向を凝らした大きな壁画が施されて、乗客の目を楽しませました。その後建造された船でも引き続き凝った内装のサロンは保たれ、いつしか船長や船主の接客スペースとして各船社のステータスシンボルとなっていきます。
壁画のデザインや制作は造船所に一任され、(株)島屋、(株)川島織物(当時)などのインテリアデザイナーが楽しみながら制作に励んだようです。「滋賀丸」に飾られた西陣つづれ織りの壁画『浮御堂』の下絵は、(株)川島織物セルコン織物文化館(京都府)に今でも大切に保存されています。つづれ織りとは、のこぎり歯状に研いだつめ先で緯糸を1本1本かき寄せながら絵柄を織る手法で、織物の中で最も根気と技術、芸術的資質が要求されるといわれています。
壁画は70年代半ばまでに当社だけでも50隻以上に飾られましたが、経済効率が重視され便宜置籍船が登場するようになると、サロンとともに姿を消していきました。
※ Aクラス・Sクラス船:Aクラスは、戦後の船隊整備の中心となった船首・船橋・船尾の高い三島型の船、Sクラスは平甲板型の高速貨物船
「滋賀丸」の壁画『浮御堂』の下絵
(デザイン:小川欣一、制作:(株)川島織物、西陣つづれ織り)
©株式会社川島織物セルコン織物文化館 所蔵
「岩手丸」の壁画『岩手丸と小岩井牧場』
(デザイン:TAU室内デザイン事務所、制作:木下純寛、漆絵)
グループ報「YUSEN」
2007年2月号No. 594
【表紙のことば】 NYKグループ・バリュー策定
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