テーブルに華やかさを添えるグラス類。昭和初期までの当社客船では、世相や業績を反映しながらさまざまなデザインのグラスが使用されてきました。
創業当時に使われたのは、精巧な切り子が施された「鹿鳴館型」グラスセットでした。製造元は岩城硝子製造所(現、岩城硝子(株))で、ワイングラスの上部には銀環がはめ込まれ、シャンパングラスはステム(脚)の内部にもシャンパンが入って底から上がる水泡が見えるという力作でした(図1)。
欧州航路開設から2年後の明治31年には、ロンドン支店を通じてイギリス製の高級クリスタル製品「プリンセスタイプ」が採用されます。その後、日露戦争後の不況期には装飾性とコストを抑えた「オールドイングリッシュタイプ」(写真2)に変わり、第一次世界大戦の影響でイギリスからの調達が困難になると、アメリカに供給先を求めます。アメリカのノニック社の製品は、縁同士がぶつからないように胴に膨らみがあるデザインが特徴でした。この同型国産品である「岩城ノニック型」のゴブレットには、グラスの水滴がドレスを濡らさないようフットの縁に切れ目を入れて、たまった水滴をテーブルクロスに流す細やかな改良もなされていました。
1.「鹿鳴館型」ワイングラスデザイン(「社船調度品由来抄」より)
2.「オールドイングリッシュタイプ」
3. ディナーセットイメージ写真
4. ノニック型の国産改良品「岩城ノニック型」
社内報「YUSEN」
2002年4月号
【表紙のことば】
イギリス海峡に面した町イーストボーンの近くのホワイトクリフ、いわゆる「ドーバーの白い壁」の上から内陸側を眺めた。イングランド特有の家並みと、その先に広がる馥郁(ふくいく)たる平野が美しい。緩やかなある週末の昼下がり、時が静かにゆるりと流れていく……。
(NYK SHIPMANAGEMENT社 片山真人)
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