江戸時代後期、海上の始発と終着地である港は多くの人が行き交い、港町として発展していきました。明治以降、鉄道の普及とともに駅も発展の中心地となっていきます。1914(大正3)年に開業し、昨年100周年を迎えた東京駅。当時周辺は一面雑草に覆われた原っぱが広がっていたといわれます。昭和初期に入ると郵船ビルをはじめ近代的な都市景観が誕生し、改札を行き交う人波、車の往来など首都の中心駅としての活況を呈し、さまざまな施設もできました。
『THE TRAVEL BULLETIN』1929年5月号では、当時の東京駅南口の正面地下におよそ100万円(当時)を費やし、約5年の建設期間を要して開店した高級大型理髪店について紹介しています。
今でこそ理髪店や美容院は髪を切るための場所ですが、「Shoji Tonsorial Parlour」は男性・女性の理髪に加えて噴水浴場と個室風呂が併設されていました。店内は広く、世界でも最も素晴らしく、快適で、あらゆる点において完璧な設備を備えていることを喧伝しています。
目的地でもあり、出発地でもある東京駅の利用者は、旅の出発の身支度を整え、また長旅の疲れを癒やす格好の場所としてこの理髪 店を利用したのではないでしょうか。今でいう駅ナカのリラクゼーション施設といった機能を備えていたのかもしれません。
ちなみに、日本の理容発祥地は日本郵船歴史博物館のある横浜です。山下公園には西洋理容が輸入されたことを記念した「西洋理髪発祥の地」記念碑があります。日本郵船歴史博物館・氷川丸にお越しの際に訪ねてみてはいかがでしょうか。
『THE TRAVEL BULLETIN』 1929年5月号 早稲田大学図書館協力
『THE TRAVEL BULLETIN』:1920~41年、日本郵船が発行した英文広報誌。全195巻
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グループ報「YUSEN」
2015年3月号No.691