明治後半から大正にかけて、浮世絵の流れをくむ美人画の広告ポスターが人気を呼んだ時期がありました。杉浦非水を起用した三越呉服店、北野恒富を起用したキリンビールが有名ですが、当社でも何枚かの美人画ポスターを制作しています。
凝った装飾の船内に、当時流行していた二〇三高地という髪型の女性が腰掛け、手には1914年(大正3)のカレンダー。時代感覚と気品を備えたこの作品は、美人画ポスターの傑作と言われています。
作者の橋口五葉は夏目漱石「我輩ハ猫デアル」をはじめ、数多くの漱石作品の装丁・挿し絵を手掛けた人気洋画家で、漱石に「自分の文章より君の絵の方が上手い」と言わしめました。このポスター作成の2年前(明治44年)には三越のポスター図案懸賞で「此美人」が1等となり、高額賞金1,000円(銀座三愛付近の土地1坪が約500円)を獲得して話題を呼んでいます。五葉の兄である半次郎が郵船社員であったため、やはり社員で世界的な浮世絵コレクターでもある三原繁吉のアドバイザーとして、系統的な浮世絵収集について助言しています。またポスターだけでなく、当社の「米国航路案内」「豪州航路案内」などの表紙絵も五葉の手によるものです。
社内報「YUSEN」
2002年7月号
【表紙のことば】
パウアヌイ(マオリ語で、たくさんの牡蠣(かき)を意味する)は、ニュージーランドのオークランドから南西に車で約1時間半のテームズより、さらに約1時間半ほど北西にある海岸沿いのリゾートタウン。太陽をいっぱいに浴びた芝は足の裏を優しく、くすぐり、潮風はどこまでも心地よく、何と穏やかで贅沢(ぜいたく)な走り。
(家族 百瀬明穂)
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